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日々、何を観て、何を聴き、何を読んだか記録しておくブログ。

心臓を鷲掴み - 一九八四年

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何となく本棚に並ぶ本をぼんやり眺めていて、ふと、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」を手に取った。

確か、二、三年前に読んだ小説だったと思う。「ビッグ・ブラザー」率いる党が支配する全体主義的近未来が舞台。主人公のウィンストンは心理省記録係に勤務する党員で、歴史の改竄が主な仕事。彼は以前から完璧な屈従を強いる体制に不満を抱いていた。そんなある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に興味を示すようになるが、それが彼の人生を大きく変えていく。

作中にとても印象的な台詞があるので、引用しようと思う。

主人公のウィンストンが党に捕まって延々と拷問を受けるくだり。拷問する側のオブライエンの台詞。

以下に。

「(前略)われわれはとても引き返せないほど徹底的に君を叩き潰すことになる。これから君は、たとえ千年生きたところで元に戻ることが不可能な経験をするだろう。普通の人間としての感情を二度と持てなくなるだろう。君の心のなかのすべてが死んでしまう。愛も友情も生きる喜びも笑いも興味も勇気も誠実も、すべてが君の手の届かないものになる。君はうつろな人間になるのだ。われわれはすべてを絞り出して君を空っぽにする。それからわれわれ自身を空っぽになった君にたっぷり注ぎこむのだ」


当時、読みながら恐ろしくなったことを覚えている。そのことを妻に話したけれど、何が恐ろしいのかイマイチ理解できないようだった。

「その小説のどこが面白いの」と妻が訊ねた。「心臓を鷲掴みにされたみたいに苦しくて怖いところ」と僕が答えても、妻はやはり理解できないようだった。

無理はない。言葉で説明するのは難しい。うすら寒いというか、なんというか、自分の理性までウィンストンと一緒にひねり潰されたような錯覚に陥るのだ。今まで自分の信じてきたものを根本から覆されるような恐怖を感じる。

この手のことは出来れば誰かと話し合いたいのだけれど、当然のことながら、身近に本書を読んだことのある人間がいない。うまくいかないもんだぜ笑